研究概要 |
百日咳毒素(PT)が百日咳ワクチンの最重要抗原であることは広く認められて来た。しかし同時に,5種のサブユニットからなる複雑な構造に加えて多彩な毒素活性を持つこのPTがワクチンの副作用の元凶とも考えられている。本研究においては,PTの構造と活性の関係を解析することにより,毒性の無い,しかも防御抗原性の有るPT抗原の開発を計画し,3年間でほぼ目的の達成を見た。PT上の異なるエピト-プを認識するモノクロ-ナル抗体20種を作成し,PT上の認識部位,PT毒性中和活性及びマウス防御能の関係を解析した。強い防御活性が抗S1のみならずS23抗体にも認められたが,その防御機構には差異があり,S1及びS23がPTの毒性発現に夫々異なった役割を果たしていることが裏付けられた。これらの防御抗体は一度感染発症を起こしたマウスに対しても,明らかな治療効果を示し,PTの作用過程がかなりユニ-クなものであることを示唆しており,特に末梢に一旦増加した白血球が減少して行く機構は興味の有る課題である。これらのモノクロ-ナル抗体との反応性を防御抗原性の指標に、毒性の無いPT抗原の開発を試みた。百日咳菌強毒株から多くの無毒PT産生変異株を得たが,防御活性の有るS234を産生する79G株はS1のcys^<41>がTyrに変わっていてその為に完全なPT分子を構築出来ないことが判明した。一方,PT遺伝子の操作によってS1のArg^9をLysに変えると,毒性は失われるが防御抗原性は残っていることが大腸菌での発現系で確認された。この成果を大腸菌から百日咳菌での発現系にて再現させ,PT毒性の無い防御抗原9K/129Gの産生に成功した。しかし百日咳ワクチンの副作用として最も怖れられている脳症については、マウスにある種の脳症を起こすことには成功したが,ヒトの脳症のモデルとしては、今後更に検討を重ねていく必要がある。
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