(1)有機化合物の変異原物質や発がん物質は薬物代謝酵素によって活性化されDNAと不可逆的に結合することが知られているが、重金属では活性化機構は解明されていない。発がん性やプロモーター活性が知られている金属のうち、6価クロム、ニトリロ三酢酸鉄(III)キレートに加えて、ニッケル(II)やコバルト(II)が過酸化水素の存在のもとでOHラジカル、一重項酸素などの活性酸素を生成し、DNA鎖の切断と塩基の損傷をもたらすことを明らかにした。Maxam-Gilbert法を併用した結果、活性種により塩基損傷の特異性があることが判明した。(2)ベンゼンは発がん物質であるが、Amesテストでは陰性である。その代謝物である1、2、4、ベンゼントリオールが銅イオンの存在下でDNA損傷をもたらすことを明らかにした。防カビ剤であるオルトフェニルフェノールもAmesテストで陰性の発がん物質であるが、代謝物である2、5ージハイドロキシビフェニールが銅イオンの存在下でDNA損傷をもたらすことが判明した。このようにDNA分子レベルでの反応解析法は細菌の系のみによる変異原性の検定法の欠点を補うことができる。(3)プロモーター活性はラジカルによるDNA損傷に基づくものであるとする説が提唱されている。二酸化硫黄や亜硫酸イオンは助発がん作用やプロモーター作用が認められている。亜硫酸イオンがコバルト(II)と反応してSO_4ラジカルを生成し、グアニン残基が特に損傷していることが判明した。これまでの研究により、発がん性をもつ化学物質またはその代謝物がDNAと直接反応することがわかり、発がん性とDNAとの反応性との間には定性的な相関関係が認められた。さらに環境汚染物質と反応したヒトのがん原遺伝子をNIH3T3細胞に導入し、細胞レベルのがん化であるトランスフォーメーションが起こるかどうかを調べることによって、ある程度の発がん性の予知が可能となろう。
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