昨年度は磁場曝露によるヒト末梢血リンパ球での姉妹染色分体交換(SCE)の誘発について検討し、約10^4Gまでの磁場ではSCEの誘発が認められなかったことを、また8×10^3Gまでの磁場では染色体構造異常が誘発されないことを報告した。今年度は磁場曝露後にX線を照射した場合と逆にX線照射後に磁場を曝露させた場合の染色体異常の出現頻度について検討した。 健常成人男子3名由来の全血を用い、(1)実験用電磁石を用いて4×10^3G、8×10^3Gの磁場強度にて7時間曝露後ただちに実験用X線照射装置によってX線を100、200、400radの線量で照射した。(2)実験用X線照射装置によってX線を400radの線量で照射後、ただちに実験用電磁石を用いて8×10^3Gの磁場強度にて3時間または6時間磁場曝露を行った。いずれの場合もただちに培養液中に加え、炭酸ガス培養器中で50時間培養を行った。比較のために無処理群、磁場単独曝露群、X線単独照射群を設定した。いずれも培養開始20時間後にコルセミドを添加し、培養終了後、引張、固定を行い染色体標本を作製し、各群100個の分裂中期細胞について染色体構造異常のうちで電離放射線によって特異的に誘発されることが知られている二動原体染色体(direntrics)+環状染色体(rings)の頻度を調べた。(1)磁場曝露後にX線を照射した場合、特に400radの高線量の場合に染色体異常の頻度が高くなる傾向がみられた。(2)X線照射後に磁場を曝露させた場合にはX線単独照射群に比べ、染色体異常の発生率が高い傾向が認められたが有意差は認められなかった。また磁場曝露の時間による影響は認められなかった。これらの結果はX線照射と磁場曝露の複合により染色体切断が起こりやすいような状態が生じた可能性を示唆しているものとも考えられるが個体差の問題もあり今後さらに詳細な検討が必要と考えられた。
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