研究概要 |
ロタウイルスを主たる病原とする乳幼児嘔吐下痢症の予防には, 胎盤移行のIgG抗体に加えて, 母乳中の分泌型抗体の役割が重要視されている. しかし, 母乳中の分泌型特異抗体の保有率や抗体価分布, 血清抗体価との相関性などの基本的な知見は少なく, 母乳哺育, 母乳抗体の予防効果について明確でない. 本研究では, これらの点を明らかにすることを目的として, 出産時の母児の免疫状況に関する情報を母体血清, 臍帯血清, 初乳, 及び新生児便等の検体から得, 次いで本下痢症罹患の有無をアンケート調査で追跡している. 今年度の研究経過を以下に要約する. 1.年間出産数が約500人で, 出産後の移動の少ない神奈川県足柄上病院産婦人科にて, 現在まで約150人の対象者から上記の各検体を採取している. 2.1で得た検体については, ラムダペット(購入備品)を用いて, ELISA法で免疫グロブリンクラス別のロタウイルス抗体測定を進めている. (1) 母体血清, 臍帯血清, 及び初乳におけるロタウイルス抗体価の分布は, いずれも類似した分布曲線であった. (2) 同一対象者から得た母体血清と臍帯血清のロタウイルスIgG特異抗体価の相関係数は0.74と高く, 一方, 初乳のIgA特異抗体価と母体血清IgG特異抗体価との相関係数は0.56とやや低かった. (3) 母体血清中のIgG特異抗体は, その平均抗体価が初産婦群に比べて第2子以上の経産婦群に高いことがわかった. 本下痢症は1〜3歳児で主に流行しており, 育児経験のある経産婦に抗体価が高かったことは, ロタウイルスに児→母親という感染のあることを示唆している. 当初の研究計画では出産後1年までの追跡を予定していだか, 本下痢症の発生に関する詳細な解析を加えるために, 追跡を3〜5年に延長することを考えている.
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