ロタウイルス(HRV)感染による乳幼児嘔吐下痢症には、母乳中の分泌型抗体の予防効果が注目されているが、血清に比して母乳抗体に関する疫学的知見は少なくその効果は明確でない。本研究では、母体血清、臍帯血清、初乳、新生児便等から出産時の母児の免疫学的情報を得、下痢症罹患の有無を質問票調査で追跡した。以下に成績を要約する。 1.産婦381人から採取した母体血清431例(妊娠初期48例、同末期152例、分娩後231例)、臍帯血清105例、初乳104例をELISA法にて抗体測定した。 2.HRV抗体価分布は、母体血清(IgG抗体)が60-80未満、臍帯血清(IgG抗体)が40-60未満、初乳(IgA抗体)が40-60未満にピークがあった。母体血清は妊娠期及び分娩後のいずれも類似の分布であった。 3.初産婦と経産婦を比較したところ、【○!1】妊娠末期及び分娩後母体血清の抗体価分布は、初産婦群の20-40未満に対して経産婦群は60-80未満と高かった。初乳の抗体価分布にも同様の差異がみられた。【○!2】妊娠期及び分娩後母体血清の平均抗体価は、初産婦群に比べて経産婦群が有意に高かった。また、初乳も経産婦群の平均抗体価は有意に高かった。【○!3】母体血清の年齢別平均抗体価は、全年齢階級で初産婦群に比べて経産婦群は高かった。 4.各検体間の抗体価の相関性は、母体血清と臍帯血清の間では、初産婦群がr=0.485(p<0.01)、経産婦群がr=0.516(p<0.01)と有意であった。しかし、各々の血清と初乳との間では相関は見られなかった。 5.冬期の嘔吐下痢症と診断された児は、1歳以上の対象児65人の内4人で、この内、1人は人工乳栄養、2人は混合栄養で母乳保育期間は2カ月未満であった。対象児の兄弟も含めた解析から、冬期の下痢症罹患率は第1子が12.4%で第2子(4.3%)に比して高かった。本下痢症は主に1〜3歳児で流行しており、さらに詳細な解析を加えるために、対象児が2〜3歳になるまで追跡を継続する。
|