研究概要 |
小核試験は, 赤芽球-赤血球系に生じた染色体異常等によって生じた遅滞染色体及びその断片(小核)を指標にして発癌物質を検出する方法である. 我々は, 細胞の分化・増殖が亢進した状態で変異原物質に曝露すると, 染色体異常の誘発率が高まると考え, さらに, 環境中に存在する因子を検出すべく以下の実験を行い, 新たな知見を得た. 赤芽球系細胞の分化・増殖を促進させるエリスロポエチンは, 小核試験において, 変異原物質による染色体異常誘発頻度を亢進させることを見い出し, しかも量-反応関係があることを明らかにした. また, マウスに塩化コバルトを投与するとエリスロポエチンの産生が促進され, そのために小核試験において, 変異原物質による染色体異常誘発頻度(小核の出現)が亢進し, かつ量-反応関係も認められた. 以上の結果により, 細胞の分化・増殖が変異原生誘発に影響を与えることが示唆された. そこで次に, 環境中の赤芽球系細胞の分化・増殖に影響を与える因子の検出を試みた. その一つとしてまず一酸化炭素に注目した. まず, 一酸化炭素曝露装置にて一定濃度の一酸化炭素を曝露する実験方法を確立した. この実験方法によりマウスを一酸化炭素中毒の状態にした後, 発癌物質として知られているbenzo(a)pyreneを投与すると, benzo(a)pyrene単独投与よりも染色体異常の誘発率が高くなることを認めた. また, 曝露濃度又は曝露時間と小核誘発頻度の間に量-反応関係が認められた. これらのことから一酸化炭素が変異原物質による小核誘発頻度に影響を与えることが明らかにされた. 以上より, 環境中には, 染色体異常誘発を助長する因子が多数存在することも考えられ, 染色体異常誘発物質のモニタリングとして, 本試験方法が有用であることを認めた.
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