研究概要 |
死後経過時間の推定は, 法医学領域の重要な問題である. これまでは死体現象を指標として経験的に推定されているが, 客観性に欠けている. そこで死体血中の血清補体成分(C3)の経時的な分解(電気泳動ではB_1CからB_1Aへの移行)を指標として客観的に死後経過時間を推定することを試みた. 〔方法〕死亡時刻の明確な司法, 行政解剖例, 検死例の心臓血を試料とした. B_1C及びB_1Aの定量は抗ヒトB_1A血清を用いた交差免疫電気泳動法によった. 〔結果〕B_1CからB_1Aへの移行は(dc)/(dt)=-kc-(1)C:B_1C濃度, Kは反応速度定数. 反応速度定数Kと絶対温度Tとの間にはlogk=-E/(RT)+A-(2), E:活性化エネルギー R:気体定数, A:定数. 死亡例において, 死後I時間後の直腸温がToの時, 死後I時間まで体温が直線的に下降するとすれば, 時刻tの絶対温度T(t)は, T(t)=(To-310)/I×t+310-(3)となる. E/RとAが求められると式(1)(2)(3)より死後I時間のC3の率(計算値x)がわかる. 実際の死体血中の分解したC3の率(実測値x)はB_1CとB_1Aの濃度比として求められる. in vitroのC3分解より得られた値E/R=6.650, A=16.4を用いて死後I時間の計算値xを求め, 実測値xと比較した. 1.実測値xが0から12の間では両者の間に直線関係が成り立ち, 有意の相関関係があった(γ=0.873)2.実測値xが12以下の例について実際的応用を試みた. 式(3)に任意のIを用い計算値xを求めた. 実測値xに最も近い計算値xを導き出すIを死後推定時間(PMIE)とし, 死後経過時間と比較したところ両者の間に直線関係が成り立った(γ=0.891), これより死後24時間まで推定可能であることがわかった(PMIとPMIEの差:平均3.2, 標準偏差2.8) 3.実測値xが12以上では実測値が増加しても計算値xはほぼ一定であった.
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