研究概要 |
本研究は, ヒトの個人識別や親子鑑定にとって重要な血液型物質の内で, フコシル糖鎖をその抗原決定基に含むH.Se.ルイス式血液型物質の生合成と, それぞれの抗原のヒトの血球や各臓器での発現について, 遺伝生化学的に明らかにすることを目的とするが, 研究初年度に得られた知見は以下の通りである. 1.フコシル基転移酵素の内で, α(1→2)-, α(1→3)-に続き, 新たにα(1→4)フコシルトランスフェラーゼのアッセイのための特異的基礎が合成でき, これによりLe遺伝子の関与するフコシルトランスフェラーゼのアッセイ系が確立された. 2.ルイス式血液型抗原の合成経路に関して, 糖ヌクレオチド(GDP-fucose)を用いた血球の型変換からLe(-)→Le(a+), Le(b+)の他に, 新たにLe(a+)→Le(b+)の合成経路を証明し, 同時に糖蛋白質由来のルイス活性物質を血球膜上に証明した. 3.抗Le^a, 抗Le^b及び抗Le^×モノクローナル抗体を利用した. ラジオイムノアッセイ系の検討を行い, Le^aおよびLe^b抗原については, 種々の微量試料について定量化が成された. また, さい帯血, 妊婦血などのほか, 疾患との関連で変化する血球のルイス式血液型について, 血清からの型のタイピングが可能となるなどの応用を認めた. 4.LeX抗原の合成に関与するα(1→3)フコシルトランスフェラーゼの分離, 精製を行い, 二種類以上の酵素の存在を証明し, X遺伝子など, α(1→3)フコシルトランスフェラーゼの産生を支配する新たな遺伝子の存在を検討中である. また, 腫瘍関連抗原の合成に関与する種々の糖転移酵素の遺伝生化学的検討も, H, Le, Se及びX遺伝子との関連で明らかにしつつある.
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