研究概要 |
皮膚紋理は解剖学・発生学・人類学・人類遺伝学・先天異常の領域で興味を持たれている形質であるが, 今までは適当なモデル動物がなかった. 筆者は1985年にラットに皮膚紋理の存在することを世界で最初に発表し, その後近交系には系統特有の紋理が現れることを確認し, 皮膚紋理の実験系を確立したが, 今年度は以下の研究成果を得た. 1.故吉田俊秀がГ線照射によって作成した均衡型転座染色体(11番とY染色体)を有する雄ラットから11種類の異常核型を有する固体80頭を作成し, その皮膚紋理を観察した. 昨年偶然に入手できた極端な異常核型のような個体が得られなかったためと考えられるが, これら11種類の異常核型には皮膚紋理の異常が観察されなかった. なお, 数十個体の検査を予定しているが, これはヒト以外の動物で染色体異常と皮膚紋理の関係を調べた最初の研究であり, 目下論文作成の準備中である. 2.発生過程を明らかにするため, 泡状紋と三叉紋を有する2つの近交系について, 胎齢18日以降の胎児と新生児を作成し, 光顕並びに走査電顕用の真皮標本を作成しつつある. この研究過程において成獣とは異った薬品処理条件が必要であることが分かり, 年齢によって異る至適条件を確立した. 3.泡状紋と三叉紋を有する2系統の近交系の交配を行い, 多数のF1,F2,バッククロス固体を作成したが, 後者では元の近交系に近付いた紋理が出現し, 遺伝の関与が強いことが確認された. 4.発育過程の特定時期に, ある特殊な環境条件を作ることにより, 皮膚紋理奇形(顕著な瘢痕様変化)を生ずることが分かった. 外見や生殖能力は普通で, すでに50頭を作成していることから再現性が確認された. 以上のようにラットの皮膚紋理は, 紋様形成のメカニズムなどの新たな実験可能領域を示唆している.
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