負イオン化学イオン化(NICI)法による質量分析(MS)は、従来の正イオンMSにはない有利な特徴を有している。しかし、これらの特徴は分析する物質の種類によって随分異なる。従って今回の一連の研究では、まず向精神薬物、特にベンゾジアゼピン類、その水解物であるベンゾフェノン類、ヒダントイン類について、NICI、正イオン電子衝撃(PIEI)法、正イオン化学イオン化(PICI)法によるマススペクトルを測定比較解析し、NICI法の特徴を検討した。ベンゾジアゼピン類24種を検討したところ、感度の点でNICI法がPIEIやPICI法よりも優れているという事はなかったが、ハロゲン基の同定には特に有用であった。ベンゾフェノン類14種についてもNICI、PIEI、PICI法によるマススペクトルを測定検討したところ、NICI法による分子負イオンの強度は非常に強く、他のフラグメントイオンは出現しにくいが、ハロゲンやニトロ基による負イオンは出現した。従ってNICI法によるselected ion monitoringを用いて、PIEI、PICI法よりもはるかに高感度なベンゾフェノンの検出が可能である事が判明し、現在詳細な定量実験を行っている。ヒダントイン類についても同様な実験を行ったところ、NICI法によるマススペクトルでアミド基によるm/Z42の負イオンが特徴的に現われ、スクリーニングに利用できる事が分ったが、感度的には特に優れていなかった。以上の様なマススペクトル解析に加えて、実際に人体材料から薬毒物を検出同定するために、種々の抽出法を検討した。すなわち、ベンゾジアゼピン類、バルビタール類、ブチロフェノン類、さらに有機リン剤等について調べたところ、Sep-Pak C18カートリッジを用いて抽出するのが、迅速性、回収率、不純物混入性の点から最良であった。以上の結果を論文としてまとめ、各雑誌に発表し一部は現在印刷中である。
|