ピリドン・カルボン酸系抗菌薬には一見相反する興奮性と抑制性の多彩な中枢神経系副作用のあることが報告されている。それらのうち最も重篤なものとして痙攣があり、特に非ステロイド系消炎薬(NSAID)との併用時に痙攣が誘発されたという報告がなされてよりこの誘発機序が問題となっている。既に我々は、本系薬の痙攣発生機序として中枢神経系の抑制性伝達物質と考えられているγーアミノ酪酸(GABA)の受容体への結合阻害を示してきた。今回、我々は新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬によりGABA受容体結合阻害に対するNSAIDsの影響を、種々の構造を有する新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬を用いて検討した。その結果、ほとんど全ての新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬でGABA受容体結合を阻害し、NSAIDsの共存により一層阻害効果が増強されることが明らかとなった。しかし、1位にジフルオロフェニルを有する化合物では、GABA受容体結合を阻害する効果は弱く、フェンブフェンの活性代謝産物であるビフェニル酢酸の存在下でも、その阻害効果は若干増強されたにすぎなかった。更に、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬はCaとキレートすることが知られている。そこで、本系薬によるGABA受容体結合の阻害、およびNSAIDsによる阻害の増強におけるCaの影響を検討した。10mMのCaの添加により、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬およびNSAIDsの存在により低下していた結合は若干回復する傾向が認められた。更に、エノキサシンの脳室内投与による痙攣誘発作用はビフェニール酢酸の同時投与で著しく増強された。 以上より、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬は、特にNSAIDsの共存下では、GABA受容体結合をより強く阻害し、痙攣を誘発しやすくする可能性が示唆された。この効果は、マウスの脳室内投与実験においても確認された。
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