近年の新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬 (キノロン系抗菌薬) の進歩には目覚ましいものがあり、その臨床使用量も爆発的に増大している。それにともない、従来より宿命的と考えられていた中枢神経副作用、とくに痙攣副作用の発生機序が注目を集めている。我々は、本系薬による痙攣の発生機序を明らかにする目的で、中枢神経系において抑制性伝達物質と考えられているγ-アミノ酪酸 (GABA) 受容体結合との関連において検討を加え、以下のことを明らかにした。1.新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬は、濃度依存的にGABA受容体結合を阻害した。2.新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬によるGABA受容体結合阻害は、その構造上、7位に遊離のピペラジニル基を有する化合物で阻害効果が大であった。3.アスピリンを除く非ステロイド系消炎薬の共存下では、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬によるGABA受容体結合の阻害効果は増強された。とくに、非ステロイド系消炎薬の一つであるフェンブフェンの活性代謝産物のビフェニル酢酸の存在下では、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬によるGABA受容体結合の阻害が著しく増強された。4.新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬の共存により、GABA結合部位の最大結合量が減少した。しかし、同結合部位の親和性には変化がなかった。また、非ステロイド系消炎薬と新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬の同時存在下においても、GABA結合部位の最大結合量が減少し、その親和性には変化がなかった。5.マウス脳室内にビフェニル酢酸を同時投与することにより、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬 (エノキサシン) による痙攣は誘発されやすくなった。以上の結果より、新ピリドン・カルボン酸系抗菌薬はGABA受容体結合を阻害することにより痙攣を誘発する可能性が示唆された。また、両系薬の併用は発痙攣性を高めるので、臨床上十分な注意が必要となる。
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