研究概要 |
発癌過程における正常細胞膜蛋白の抗原性の変化を解析するために、われわれの作製した正常ラット肝細胞膜蛋白に対する単クローン性抗体(HAMA)を用いて検討した。化学発癌剤(3′-Me-DAB,2-AAF,DEN)及び部分肝切除による発癌モデルを用い、発癌過程において前癌病変として注目されている過形成結節を含め各段階におけるHAM・4抗原発現の変化を酵素抗体法を用い組織化学的に解析し、また細胞性ラジオイムノアッセイにより抗原量の変化も判定量的に測定した。過形成結節では拡張した毛細胆管面に一見正常肝より強く染色されるが、ラジオイムノアッセイでの抗原量は変化を認めなかった。しかし後期の過形成結節では結節内の一部の細胞で膜抗原が減弱あるいは消失した結節がいくつか認められた。肝癌組織では、高分化型索状肝癌で残存し、中分化型では点在するのみで、未分化あるいは充果性肝癌では消失していた。このことは、発癌過程では前癌状態においてすでに過形成結節細胞が分化度の異なる癌細胞へと方向づけられている可能性を示唆しており、癌の分化度と前癌病変との関連を解析する上で今後有用と考えられた。胎児および新生児肝におけるHAM4抗原の存在様式についても同様に検討した。胎齢18日より染色上もラジオイムノアッセイでも明瞭に確認され、次第に増強し生後も減弱することなく生後4週齢で成熟肝と同様となった。このことより、この膜蛋白は肝細胞の分化に関与している蛋白であると推測される。HAM4抗原は、ラット肝細胞膜の糖蛋白で、分子量は110KDaであった。その局在は5ーGTPと類似しているが、発現様式は大きく異なる。またこの糖蛋白はラット腎の近位尿細管にも存在し、その分子量は肝よりもやや大きい。今後そのアミリ酸配列を解析し、前癌細胞の膜変化の機序を知るのに有用と考えられる。
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