肝不全時にみられるアミノ酸やアンモニアの代謝異常が肝性脳症の発現機序に関与することが指摘されている。脳内シナプトソームにおける抑制性(GABA)、興奮性(グルタミン酸)神経伝達物質の合成が、ミトコンドリアのグルタミナーゼ活性によって調節されている。そこで、今年度は、アンモニアなど肝不全時に血中や脳内で増加する毒性物質がグルタミナーゼ活性に対してどのような影響を及ぼすかin vitroを中心に検討した。リン酸により強く活性化されるグルタミナーゼ活性は脳各部位で高く、大脳と脳幹ではシナプトソーム分画が非シナプトソーム分画より明らかに高い。生理的変動範囲であるアンモニア濃度(0.1、1mMNH_4Cl)で、大脳、脳幹とも57〜78%に活性が低下した。しかし、非シナプトソーム分画のグルタミナーゼ活性には有意の活性低下はみられなかった。他の肝性脳症〓起物質であるオクタノエート(低級脂肪酸)とメタネチオール(メチオニンの腸内細菌代謝産物)、反応産物であるグルタミン酸やGABAについても検討した。0.1〜1mMのオクタノエードではシナプトソーム分画のグルタミナーゼ活性は73〜86%と低下し、また1mMのメタネチオール、グルタミン酸やGABAでも64〜79%に活性を低下させた。 以上、ラットの脳グルタミナーゼ活性をシナプトソームと非シナプトソームに分けて測定した結果、1mMのアンモニウムイオン、オクタノエート、メタネチオールなど添加することにより57〜80%に活性が低下した。 今後、さらに、アンモニアの阻害機構を明らかにし、他の毒性物質との相加的、相乗的作用の有無について詳細に検討する必要がある。
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