本研究において、(1)人肝癌由来培養細胞(Hep G2)の培養系の確立、(2)フロアポA-I転換酵素活性測定のための基質となる標識プロアポA-Iの合成、(3)プロアポA-I転換酵素活性測定法としてのTCA assay法の確立、(4)各種肝疾患、脂質代謝異常疾患者血清中のプロアポA-I転換酵素活性の測定、を行った。Hep-G2細胞培養系に、[^3H]フェニルアラニンを加え培養することにより[^3H]標識プロアポA-Iを合成し、抗アポA-I抗体ーSepharose4Bカラムおよび調製用SDS電気泳動法を用いて精製した。標識プロアポA-Iを基質として検体血清とインキュベーションを行い、反応停止にはTCAを加えた。TCA沈澱上清の放射活性のEDTA非存在とEDTA存在との差をプロアポA-I転換酵素(PAC)活性とした。TCA assay法を用いて健常者、肝硬変および高脂血症患者血清におけるPAC活性を測定し、本活性は血清におけるプロアポA-Iの割合と有意の負の相関を認め、アポA-Iおよびトリグリセリドとは正の相関を認めたが、コレステロールおよびHDLーコレステロールとは有意の相関を認めなかった。健常者血清におけるPAC活性は7567±773dpm/24h/ml serumであるのに対して、肝硬変患者血清では3352±1272と有意に低下していた。一方、高トリグリセリド血症患者血清では10530±3157と有意の上昇を認めたが、さらに検討すると7641±794と健常者と有意差のない群、13420±605と約2倍に活性が上昇している群の二群に分けることができた。今回、血清のPAC活性がTCA assay法により測定できることを示し、肝硬変患者血清においては本酵素活性が低下、高トリグリセリド血症患者の一部では逆に活性が上昇していることを示した。その意義についてはまだ不明であるが、今後さらに肝疾患および脂質代謝異常症におけるPAC活性を測定することが、本酵素のHDL代謝上における意義の解明につながると思われる。TCA assay法が簡便で有力な手段となりうる。
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