研究概要 |
健常者50名及び肝細胞癌(HCC)患者138名を含む各種疾患例で血漿中異常プロトロンビン(PIVKA-II)をEIA法にて測定しHCC例の59%でPIVKA-IIは陽性で肝硬変67例は全例陰性であり, PIVKA-IIはHCCに高い特異性が認められた. AFP陰性のHCC例の半数強でPIVKA-IIは陽性を示し両者の組み合わせがHCCの診断に有用と思われた. HCCではPIVKA-II値と腫瘍の大きさとに関連がみられたが2cm以下の小肝癌例でのPIVKA-II陽性例は稀であった. またPIVKA-II陽性のHCC患者はvit.K欠乏患者と同じvit.K感受性を示しHCCの治療効果判定及び増大再発の早期発見にPIVKA-IIの半減期(60時間)を考慮した減少率でfollowする事が有効と考えられた. ヒト肝癌細胞株huH-1, huH-2, PLC/PRE/5, HepG2, Hep3Bの培養上清中にPIVKA-IIが検出されしかも経日的にPIVKA-II値が増加した. またvit.Kをあらかじめ添加した場合にはいずれもPIVKA-II値は著減した. その他の非肝癌細胞株の上清中にはPIVKA-IIは検出されなかった. 以上よりPIVKA-IIは肝癌細胞で産生されしかもその産生はvit.Kの存在に左右される事が判明した. huH-2を用いて肝癌細胞におけるPIVKA-IIの産生機序を検討したところ正常プロトロンビン産生に関与する3つの酵素K-epoxide-reductase, K-reductase(vit.K cycle)及びγ-glutamyl-carboxylaseのすべてが働いている事が判明しその機序としてはプロトロンビン前駆体の産生亢進に伴うvit.K cycle及びγ-carboxylationsystemの不均衡によるものと推測された. また酵素抗体法を用いてHCC患者の手術材料でプロトロンビン関連抗原(F-II)の染色を試みたところPIVKA-II陽性のHCC患者の癌部の方が陰性HCC患者の癌部に比べF-IIが多く検出された. この事は肝癌細胞でのPIVKA-IIあるいはプロトロンビン前駆体の産生を示すものと思われた. なお非癌部ではPIVKA-II陽性例と陰性例とに差はみられなかった.
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