研究概要 |
無芽胞嫌気性菌の中でも, ヒトに対する病原性が強く, かつ呼吸器感染症の原因菌となるBacteroides属を用い, 嫌気性菌性肺炎の成立に関する実験を行った. 臨床的にBacteroides属は, 好気性菌特に腸内細菌と同時に分離されることの多いことが知られており, 腹腔内感染実験に於いて, 嫌気性菌は腸内細菌の存在下に, その病原性が著しく増強されることが確認されている. 我々はモルモット肺を感染の場とし, 嫌気性菌としてBacteroides属を, 好気性菌は大腸菌を用いた. 使用した菌種は, B.fragilis,B.thetaiotaomicron,B.intermediDcus, 及びE.coliで, それぞれ単独の10^9, 10^7, 10^5cfu菌液あるいは, Bacteroides属+E.coliの混合菌液を作製した. 麻酔下に菌液をモルモット気管内へ注入し, 1, 3, 7, 14日目に屠殺し, 細菌学的, 生理学的, 病理学的検索を行った. Bacteroides属のうちB.fragilisが致死率, 膿瘍形成, 肺炎の程度等が他菌種に比べ強い菌力を示した. E.coliとの混合感染群は, 各単独感染よりも肺炎の増強が認められ, 肺炎局所のEhの低下は混合感染群において著明であった. 肺内菌数の推移をみると, E.coliの分離率, 分離菌数は共に, 感染病日が長くなるほど低下した. B.fragilisはほとんどが感染7日目のみに分離され, その分離菌数は, E.coliに比べて優位であった. 他の実験成績も含めて, 比下が示唆された. B.fragilis肺炎では早朝にE.coliを標的菌とすれば, B.fragilisは自然に除菌される. E.coliに対する治療は3日目までに完了することが望ましく, 治療が遷延するとB.fragilis感染を惹起しやすい. 肺炎成立後3日以上経過した例では, 両菌種に対する化学療法が必要と考えられる.
|