研究概要 |
Lipid storage myopathyは骨格筋筋線維内に過剰の脂肪滴を認める筋症の総称であり脂肪酸酸化を通してのエネルギー産性過程が種々の要因で障害されることに起因すると考えられている. 骨格筋の脂肪酸代謝調節機構には未だ不明な点も多い. 我々が見い出した症例は既知の疾患とは異なる機作によるものと考えられ, 本例の病態を解明することは筋症の発症機構について新たな知見を加えるものである. 本例の臨床的特徴は筋組織に加え白血球, 皮膚線維芽細胞にも過剰な脂肪滴を認めること, さらに神経組織における代謝異常すなわち網膜色素変性, 難聴等を有する点である. 電子顕微鏡を用いた形態学的観察の結果は以下の通りであった. 筋鞘膜下及び筋原線維間に限界膜を持たない数珠状脂肪滴の存在, 一部変形したミトコンドリアの増加, その他の細胞内構造はほぼ正常に保たれていた. 次に生化学的解析では骨格筋のcamitine含有, carmitoyltransferase活性, ミトコンドリア電子伝達系酵素活性は正常値を示した. 本例の脂質代謝障害をさらに解析する目的で患者より得た皮膚線維芽細胞における14C標識長鎖, 中鎖, 短鎖脂肪酸の酸化能をそれぞれ測定した. その結果, 長鎖脂肪酸の酸化過程が選択的に障害されていることが明らかになった. このような長鎖脂肪酸の酸化が障害された場合の細胞内脂肪酸動態を検討する目的で脂質分画への14C+palmitate取り込みを測定した. triglyeeride分画への取り込みは患者細胞では対照の2倍の速度であったが, リン脂質分画では対照と差を認めなかった. 一方皮膚線維芽細胞より抽出した脂質の分析から蓄積脂質はtriglycerideであり, その脂肪酸構成は対照と一致していた. 以上の結果よりミトコンドリアを中心とする長鎖脂肪酸酸化系酵素活性低下が考えられた. 本例の代謝障害部位, 病態を明らかにするために現在, ミトコンドリアのβ酸化系酵素活性及び細胞内各種triglyceride lipase活性測定を行っている.
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