研究概要 |
多発性硬化症 (MS) の髄液IgG濃度の増加はよく知られている。しかしIgAやIgM濃度については、その定量に高感度測定法が必要なためこれまで報告は極めて少なく、注目されていない。一方近年CTやMRIにてMSの血液-脳関門 (BBB) の障害が確認されるにおよんで、MSにおける髄液中のIgGの由来や病態発生の理解に影響を生じてキタ。〔目的〕MSの髄液中のIgG,IgA、IgMを定量してそれらの値を対照群と比較し、またアルブミンとの関係よりBBBの透過性亢進の影響を明らかにする。〔対象〕正常対照群は男14、女8名 (年齢は14〜55歳、平均32歳) 。McDonaldらの診断基準を満し、更にMRIにて頭蓋内に特徴的病巣を有するMS7名 (29〜67歳、平均41歳) 。罹病期間は1〜9年、平均5.9年。Kurtzkeの障害度 (EDSS) は3.5〜8.0、平均6.0〔方法〕定量は蛍光抗体固相法。oligoclonal bands (OCB) はhigh resolution agarosegel electrophoresis with silver staining methodで検出。〔結果〕1.正常髄液の平均値 (SD) は総蛋白量28.8 (7.6) mg/dl、albumin (A/b) 15.1 (3.2) mg/dl、IgG23.9 (7.6) ug/ml、IgA2.00 (0.90) ug/ml、IgM197 (87) ng/ml。Alb ratio (×10^<-3>) 3.26 (0.67) 。Indexes:IgG、0.51 (0.10) ;IgA、0.25 (0.05) ;IgM、0.044 (0.017) 2.MSでは総蛋白量39.0 (14.8) mg/dl、IgG54.3 (20.2) ug/ml、IgA3.95 (2.96) ug/ml、IgM956 (811) ng/mlでいずれも正常値より高い。3.OCBはMS前例で陽性。4.MSでは髄液Alb値とIgAやIgM濃度との間に正の相関があったが、IgGとの間には認められなかった。5.罹病期間の長いほどEDSSは有意に高く、髄液IgGの間には認められなかった。しかし髄液IgAやIgM濃度と罹病期間やEDSSとの間に相関はなかった。〔結語〕ずいりきIgG値の増加の機序は、IgAやIgM濃度のそれとは異なると考えられた。すなわち後二者ではBBB障害による影響が推察されたが、前者は他に別の因子、脳内産生機序、も関与することが示唆された。
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