食塩と本態性高血圧症との関係を解く鍵となる物質として注目されている視床下部由来Na^+、K^+-ATPase抑制因子の精製、同定とその作用の検討を行った。生細胞(ヒト赤血球)への^3Hウアバイン結合抑制活性を指標とする検定法が種々の検定法のなかで感度・選択性の二つの面から優れていることを見い出した。この方法を利用して、ヒト尿(およそ100トン)から高速仮体クロマトグラフィーを活用する分離手段にて、Na^+、K^+-ATPase抑制因子を単一ピークにまで精製することができた。逆相ODSカラムから18%アセトニトリルで流出される極性の高い物質と、31%アセトニトリルで流出される極性の低い物質の二種が認められた。いずれも、イヌ腎Na^+、K^+-ATPase酵素活性の直接抑制、ラット脳シナプトゾームへの^3Hウアバイン結合の抑制、ヒト赤血球へのウアバイン感受性^<86>Rb取りこみの抑制などのジギタリス様生物活性を示した。前者では抗ジゴキシン抗体との交叉活性は軽微であったが、後者では著明な交叉活性を示した。紫外吸収パターンは前者ではジギタリスに特有な220nmのピークは認めなかったが、後者には存在していたペプチターゼに対する反応から、両者とも非ペプチドであり、特に後者は、ジゴキシンと構造が極めて類似する可能性が大きい。両者ともウサギ大動脈の張力を増加させたが、特に前者ではラット血首平滑筋細胞内遊離Ca^<2+>濃度も上昇させた。両者とも腎尿細管細胞のNa^+、K^+-ATPase活性を抑制した。以上より、二種のNa^+、K^+-ATPase抑制因子がヒト体内では産生され、Na^+、K^+-ATPaseの生体内リガンドとして作用している可能性が大きい。両物質の最終構造の同定については、核磁気共鳴などを応用して検索中である。
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