研究概要 |
本年度は心電図QT延長をきたす病態のうち、甲状腺機能低下症に対象を絞り、甲状腺切除が心室再分極に及ぼす影響を家兎を用いた動物実験により検討した。 1.方法:家兎の甲状腺を麻酔下で切除し、4〜6週間後に心臓を摘出した。右室より乳頭筋を切り出し、表面潅流下で膜活動電位波形と等尺性張力を記録した。標本作成時の静脈血中甲状腺ホルモンT_4は対照群の約1/3に低下していた。 2.結果:甲状腺切除群(Hypo)では非切除群(Control)に比べて、活動電位持続時間(APD)と興奮開始から最大張力(DT)発現までの時間(tPT)が有意に延長していた。これらの変化は標本の刺激頻度が低い程著しく、0.1〜0.25HzではHypo群のAPD(OmV)とtPTがControl群の1.7〜2.2倍にまで延長した。Hypo群のDTはControl群よりも僅かに小さかった。静止膜電位、活動電位振幅、活動電位最大立ち上り速度については両群間に有意差を認めなかった。 標本に対する電気刺激を中断し、10〜60秒後に刺激を再開すると、Control群では第一拍目(B_1)に定常状態の収縮(Bss)を大巾に上回る大きなDTが得られた。DTは第二拍目(B_2)で最小となり、ついで徐々に回復してBssに至った。Hypo群ではこの休止期後の収縮力増強(postーrest potentiation,PRP)が消失し、B_1がB_2と同等か、それよりも小さいDTを示した。Control群の標本に、筋小胞体からのCa放出を抑制するryanodineやcaffeinを添加した場合にもPRPの消失が観察された。 3.結論:今回の実験結果から、甲状腺機能低下時には、心筋小胞体のCa取り込み、放出機構の障害があり、それに伴う細胞内Ca動態の変化がAPD延長と心電図QT延長に密接に関連していることが示唆された。
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