研究概要 |
冠動脈攣縮は冠動脈の強い収縮であり、周期的に繰り返して起こることが知られている。この収縮にはCaスパイクの関与が考えられるが、いまだ確認されていない(Cardlovasc Res,1977;Heart Vessel,1988に発表)。しかし、冠動脈平滑筋の膜電位固定は、血管壁の構造状の問題などのために技術的に極めて困難で、イオン電流の解析はほとんど行われていない。本研究においては、patch clamp法を用い、コラゲナーゼにより単離あるいは培養により得た血管平滑筋細胞を用いて膜電位固定を行ない、冠動脈平滑筋の構成イオン電流の分離同定を行った。 Loose patch clamp法による血管平滑筋の膜電位固定においては、正の条件電位を与えても正味電流はほとんど外向きの電流のみしかあらわれず、通常の状態ではCaスパイクが生じにくくなっていると考えられた。しかし、外液をBaで置き換えると内向き電流が生じることより、Caチャンネルは存在していることが示唆された(Tokushima J Exp Med,1988に発表)。 Patch clamp法による単一チャンネル記録では、平滑筋細胞においては、チャンネル密度の高い細胞内Ca濃度に依存性のKチャンネルが3種類認められた。これらのKチャンネルはCaの流入に対して大きな外向き電流を生じ、Caスパイクの発生および細胞の収縮を抑制する役割を有すると考えられた。また、冠動脈平滑筋細胞には、従来のKチャンネルと性質の異なるKチャンネルが存在しており、このKチャンネルをブロックすることにより細胞の収縮を認めた。今回の検討から、これらのKチャンネルの開閉が血管の収縮・拡張をコントロールする一つの大きい要因と考えられた(Nature投稿予定)。
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