本研究では従来はあまり注目されていなかった心収縮の同期性が心室の収縮力に及ぼす影響について犬摘出交叉灌流心を用い検討した。心収縮を心筋固有の収縮特性の時間経過と同期性の変化の2つの要因に分離して評価するため、畳み込み積分モデル(仮説)を提唱した。この仮説に基づき収縮中の心室をいろいろな時相で大電力ペーシングを行い、得られた左室の圧波形から時間軸で逆畳み込み積分を行い心筋収縮の時間経過を算出した。その結果、心収縮初期に興奮する心筋群は機械的な興奮が遷延するのに対し、後期に興奮する心筋群は短時間で興奮が完了することが示された。この心筋の特性の不揃いさのため、大電力瞬間ペーシングで電気的な収縮の同期性を高めても必ずしも機械的な同期性は保たれないものと思われた。むしろ生理的な刺激伝導系を介して遅れを持って収縮するほうがより機械的な収縮の同期性が維持されるものと思われた。 本研究の前提である畳み込み積分の仮説を評価するため、犬摘出灌流心の心室細動圧波形の周波数解析を行い、そのケプストラから周波数軸での逆畳み込み積分を行った。その結果、算出された心筋の収縮性の時間経過は時間軸の逆畳み込み積分で得られたものに近い単峰性の波形であった。この波形はカテコラミンで増加し容積変化では変化せず心筋のエラスタンスの時間経過に近いものと思われた。 〔まとめ〕畳み込み積分の概念を利用することにより心収縮を心筋固有の収縮特性の時間経過と同期性の変化の2つの要因に分離評価することが出来た。
|