研究概要 |
「慢性に経過した高度ないし完全房室ブロック例の病理」 発症後1カ月から22年間, 平均3.5年の持続をもつ慢性の高度ないし完全房室ブロック例で, 部検心にて刺激伝導系病理所見のえられた計35例を対象とした. 内訳は男性17, 女性18例で, 平均年齢は79.4歳であった. これらを補充調律QRS幅によりI群narrow QRS型(0.12秒未満)の17例とII群wide QRS型(0.12秒以上)の18例の2群に分けた. またヒス束心電図所見についても検討した. 刺激伝導系については既報のごとく, Lev法に従い連続切片標本を作製し, 房室ブロックの主座につき検討した. 成績:(1)ヒス束心電図(HBE)を施行したものはI群の9例, II群の10例で, I群ではA-Hブロックが7例, ヒス束内ブロック1例, H-Vブロック1例をみた. II群では10例中, 9例がH-Vブロックの所見を呈した. (2)刺激伝導系の病理組織所見:房室ブロックをきたしたと思われる主要病変は, I群では房室結節に主座を持つもの1例, ヒス束貫通部(HISp)の障害を3例, ヒス束分岐部(HISb)の障害を6例(35%), HISp+HISbの障害を5例(29%)に, 1例のみが左右両脚(BBB)の障害であった. 残る1例は, 房室伝導系には房室ブロックを説明する所見がなく, 洞結節近接部と心房筋の線維症が高度な症例であった. II群では, HISb障害が1例, BBBの障害が11例(61%), BBB+HISb障害4例, BBB+HISp+HISb障害, 1例であった. 残る1例は病理組織学的には左脚前枝, 後枝の障害をみたが, これのみでは慢性の高度房室ブロックを説明できなかった. (3)ヒス束心電図所見との対比:I群の一見A-Hブロックを呈した4例とH-Vブロックを呈した1例が病理学的にはともにヒス束分岐部の高度病変例でヒス束内ブロックを呈してしかるべき症例であった. II群のH-Vブロックは両脚障害に対応していた.
|