研究概要 |
本能性高血圧の発症における環境因子の関与の影響を明らかにするため, 遺伝的高血圧モデルである自然発症高血圧ラット(SHR)とその対照正常圧ラット(WKY)を用いて高食塩やアルコールの過剰摂取, 慢性心理的肉体的ストレス, 二次性糖尿病の誘発の長期慢性負荷実験を行った. これらの処置の血圧に及ぼす効果を意識下で測定し, またある実験では全身局所の血行動態や血中ホルモンを測定した. アルコールを連続及び間欠投与するとWKYでは血圧は不変だが, SHRではむしろ血圧は有意に下降しヒトの成績と異った. この処方に1%食塩を加えても血圧値には影響なく, 血中カテコラミン値も変化がなかった. SHRとWKYに急性心理的肉体的ストレスを負荷すると血圧, 心拍出量, 全抹消抵抗及び血中カテコラミンの増加はSHRの方が過大反応を示した. このストレスを8週間反復すると両動物共徐々に反応が低下し, 容易に慣れの減少を示したが, それでもSHRの方が常に血圧その他の反応が大であった. 左室体重比で評価される心肥大は両群共増大したが, SHRの方が増加度が大であった. また興味深いことにこのストレス反応を年齢の関数として調べてみると老年期より若年期の方が過大であった. 更にSHRとWKYにストレプトゾトシンによる糖尿病を誘発し血圧と代謝に及ぼす効果を容量反応関係に注意し検討した. SHRでは降圧が起こると共に致死率の増加が見られたが, WKYで降圧傾向があるものの, 致死率は低く, また糖尿病随伴症状もSKRの方が大であり, 遺伝的高血圧と糖尿病代謝障害は相互に干渉しあうことが明らかになった. 以上の研究結果より遺伝因子に依存して発症進展する高血圧への各種環境因子の影響は一様でなく, ラットモデルとヒトの高血圧症の差もあるので, 多角的複眼的アプローチの必要性が示された.
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