本研究では遺伝性の実験高血圧症の発症と進展における諸種環境因子の影響を明らかにするべく、自然発症高血圧ラット(SHR)とその対照正常血圧ラット(WKY)、両者の交雑によるF1を用いて、環境因子のうち糖尿病の合併、心理的肉体的ストレス、高食塩食負荷等の血圧、心血管合併症、致死率、循環動態やホルモンに及ぼす効果を観察し、降圧治療のストレス循環反応への効果についても検討した。ストレプトゾトシン糖尿病はSHRでのみ斃死を引き起し、代謝面の変化もSHRの方がWKYより大きく、高血圧症に糖尿病が合併するとより大きな影響を与えることが示された。重症糖尿病はSHRで冠血流予備を減弱せしめ、冠動脈疾患のリスクを高めることが示唆された。また中等度であれ糖尿病の合併は長期的には必機能を低下せしめ、心筋に大きなリスクを加えることが示された。振動ストレスやアルコール摂取、高食塩食等を単独で慢性負荷するとSHRするとSHRでのみ振動ストレスにより血圧がより大きく増大した。これと高食塩食との組み合せによりSHRでsynergisticな効果が現れた。交雑F1では血圧値と心肥大の程度は両親群の中間値に収歛したが、F2、F3では分布が広く散り、血圧は正常だが心肥大の残る群があり、アルコールや高食塩負荷など環境ストレスを加えると、振動ストレスに対して両親の中間の血圧増加反応を示した。Ca拮抗剤やβ遮断剤の長期投与はSHR群でのみ降圧と心肥大の退縮をもたらし、基礎時の血行動態とそのストレス反応を抑制した。このように各種環境因子はSHRの高血圧遺伝子に対して各々ユニークな仕方で関与する。幾つかの環境因子は高血圧を促進し、心血管合併症を増悪させるが、特に糖尿病の併発は影響が最も大きく、その適正を対処が不可欠で、この観察は臨床的にも重要な示唆を与えるものである。
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