研究概要 |
老化やアルツハイマー病, セロイドリホフンノーシス患者の脳に, ドリコールが蓄積していることが明らかにされ, 老化や痴呆と神経系におけるドリコール代謝との関連が推定されている. 我々は, 培養神経細胞中の微量のドリコール測定法を確立し, 種々の物質の細胞内ドリコール濃度に対する影響を検索した. (方法) ラット神経膠腫由来のC-6グリア細胞と, ヒト神経芽細胞腫由来のNB-1細胞の培養液中に, 糖蛋白合成阻害剤であるツニカマイシン, 種々の細胞の分化促進効果を持つことが知られているレチノール酸, そして動物実験(マウス脳室内注入)で脳内ドリコール蓄積促進作用が認められているロイペプチンを一定濃度になるように加え, その条件下で72時間から96時間培養し, とり入れた細胞中のドリコール濃度を, 蛍光ラベル法によるHPLCで測定し, コントロール細胞と比較した. (結果) 培養神経系細胞中のドリコール濃度は, 20〜80ng/mg proteinとラットやヒトの脳のドリコール濃度の10分の1以下と低値を示した. ツニカマイシン, レチノール酸添加培養液で育てた細胞中のドリコール濃度はコントロールと変わらず, 細胞内のドリコールプールサイズは, 糖蛋白合成の速度や細胞分化によってはあまり影響を受けないことが示唆された. ロイペプチン添加培養液で生育させた細胞中のドリコール濃度はコントロールに比べ有意の低下を示し, ロイペプチンにドリコールプールサイズを低下させる作用のあることが示唆された. ドリコールはライソゾーム中に蓄積することが明らかになっており, ライソゾーム内の蛋白分解酵素(チオールプロテアーゼ)の阻害剤であるロイペプチンに, ドリコールのライソゾームへの蓄積を抑制する効果があることは, ドリコール蓄積の機構にこれらの酵素が関与することを示しているものと思われた.
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