昨年度は、培養組織中の微量のドリコール定量法の確立を主眼として研究を進めたが、今年度はその微量測定法を応用して次の2点について検討を加えた。 (1)培養神経系細胞(C-6グリア)に於るドリコール代謝の調節 ラットグリオーマから分離継題培養されているC-6グリア細胞に糖蛋白合成に影響を与える可能性のある薬物を加え、糖蛋白合成の際に糖のキャリアとして働くことの分かっているドリコールの遊離型の細胞内濃度の変化をみた。加えた薬物は、レチノール酸、ツニカマイシン、ロイペプチンである。以上の薬物を細胞の培養液中にそれぞれ[10^<-5>M]、[0.1μg/ml]、[20μg/ml]の濃度になるように加え24時間培養した後、細胞を回収、ドリコール濃度を測定してコントロールと比較した。その結果ツニカマイシン、レチノール酸はC-6グリア細胞中のドリコール濃度に影響を与えないが、ロイペプチンはC-6グリア細胞中のドリコール濃度を減少させていることが明らかになった。さらにヒトの神経芽細胞腫(NB-1)についても同様の実験を行い、C-6グリア細胞におけると同様、ロイペプチン細胞内ドリコール濃度を低下させる作用があることが確認された。 (2)正常人血清中(遊離型)ドリコール濃度の加令変化 脳変性疾患や老人に伴うヒト組織中へのドリコール蓄積のメカニズムは未だに不明である。最近血清中にドリコールと特異的に結びつくリポ蛋白が存在することが明らかになった。昨年度開発したドリコールの微量測定法を用いて、正常人血清中の遊離型ドリコール濃度を測定した。その結果、弱い相関ではあるが加令とともに血清中ドリコールが減少することが明らかになった。
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