研究概要 |
近年クレチン症マス・スクリーニングの導入によって多数の典型的なクレチン症が発見されようになったが, 同時にこれまで知られていなかった新生児期の甲状腺に関する種々の病態が存在することも明らかにされてきた. これらの原因の一つとして最近ヨードの影響が注目されている. そこで我々は新生児期のヨード代謝を調べるべくその手始めとして新生児の尿中ヨード排泄量を検討した. (1)先ず正常値を知る目的で正常新生児の尿中ヨード濃度を測定した. 人工栄養児7例では平均8.6±2.6μmol/lであったが, 母乳栄養児23例では平均16.4±11.5μmol/lとばらつきが大きく人工栄養児よりも高い値を示す例が多かった. (2)次いでマススクリーニングでTSH高値が指摘され, 精査目的で呼び出されて新生児について尿中ヨード濃度を測定した. 精査の結果異所性レクチン症と診断された3例と, 正常と判定された3例の尿中ヨード濃度は差がなかった. 一方妊娠手かに胎児造影の既往をもつ2例は57.2, 67.5μmol/lと高値を示した. これら2例共に甲状腺機能低下は一過性であることが後に判明したが, 造影剤中のヨードが胎児造影後2ヵ月以上経った時期においても新生児の体内に多量に蓄積されていることが示されたか今回の研究結果から, 新生児の尿中ヨード排泄量は人工栄養児よりも母乳栄養児でばらつきがおおきく, 母乳栄養児では母親のヨード摂取量の差を反映しているように思われた. 従って妊娠中の母親のヨード過剰摂取は胎造影を受けた場合と同様に, 胎児の甲状腺機能に影響を与えることが予想される. 今後ヨード代謝とこれらの病態をさらちくわしく知るため, 個々の症例の病歴をくわしく調べ, ヨード代謝異常が甲状腺機能異常を引きおこしてくる症例を見出しその詳細な症例検討を行っていく予定である.
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