発達期の脳障害の結果、成熟脳では見られないような多くの異常な投射(神経結合)が生ずることが動物実験によって明らかになっている。我々はこれまで仔ネコ及び成ネコを用いて脳損傷後における中脳赤核を中心とする神経回路の再構成に関して研究を重ねてきたが、本研究では、それらの研究に基づいて発達期脳障害によって生ずる異常な神経結合形成の分子機構を明らかにすることを目的とした。実験材料は主にネコを用い、神経回路の再構成に関与していると考えられる分子を検索した。生後一ケ月の仔ネコの大脳皮質を一側性に破壊すると、正常では殆ど存在しない、交差性の皮質ー赤核投射が出現する。そこでこの異常な交差性投射の出現に関与する分子を見い出すため、生後間もない時期に大脳皮質を一側性に破壊したネコの赤核付近の組織を抗原としてモノクローナル抗体を作製した。スクリーニングには同様のネコの赤核付近の切片を用いた。その結果ラット胎仔の脊髄前根からの軸索の成長の時期に一致して一過性に出現する分子を染めるモノクローナル抗体95G10が得られた。この抗体はニワトリ胚にも反応するため、詳細にその出現過程を追ったところ、脊髄における軸索の成長の時期との一致がより確かなものになった。また95G10抗原は脊髄のみならず視神経の成長にも一致する消長がみられた。生化学的研究により、抗原は膜に存在する糖蛋白であることが明らかとなった。また、新たなモノクローナル抗体作製法を導入して抗体の作製を行った。これは神経系全体に分布する抗原に対するポリクローナル抗体を予め得ておき、これを目的とする抗原を多く含むであろう抗原と共にマウスに投与するもので一種の免疫抑制法である。この方法を新たに導入することによって赤核部位を特異的に染色するモノクローナル抗体が3種得られた。
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