研究概要 |
心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide ANP)は生体の体液バランスに重要な働きを持つと考えられ、心不全では血中ANP濃度の増加がいわれている。しかし、心不全におけるANPの病態生理学的意義や合成ANPの治療薬としての有用性については不明な点が多い。本研究では腹部大動脈・下大静脈吻合を行い、実験的左右短絡による心不全犬を作成し、合成ANPを投与した際の血圧、腎機能およびレニン・アルドステロン系に及ぼす効果を正常犬と比較し、心不全におけるANPの病態生理学的意義および治療薬としての可能性を検討した。 正常犬ではANP投与に伴い血圧および脈拍の低下,尿量およびFENa,FAClの増加を認めた。FEKおよびGFR,RPFには有意な変化がなかった。心不全犬では約70%の左右短絡を認め、GFRは正常犬に比し低値で、レニン活性、アルドステロンは高値であった。血中ANP濃度は軽度の上昇を認めたが、統計的有意差を認めなかった。ANP投与に伴う血圧、脈拍、尿量、FENa、FEClの変化は正常犬に比し低下していた。FEKおよびGFR,RPFは心不全犬においても同様に有意の変化を認めなかった。 心不全犬でのレニン・アルドステロンの高値は腎循環の低下に対する代償機転が働いているものと思われる。ANP投与における血圧、尿量、FENa、FEClの反応低下は、ANPレセプタ-のdown regulationあるいはレニン・アルドステロン系の亢進、腎交感神経系の関与、腎尿細管への直接あるいは間接的な種々の要因が考えられる。ANPレセプタ-、交感神経系の関与に関しては現在検討中である。ANPの心不全における利尿剤としての有用性には疑問があるが、心不全にANPを投与し血行動態の改善を認めたとの報告もあり、利尿剤としてよりもむしろ血管拡張剤としての効果を期待しうるものと思われる。
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