研究概要 |
心臓の収縮に関与する重要な収縮蛋白の一つであるミオンシン重鎖遺伝子にはα, βの二種類が存在し, その発現はホルモンおよび血行動態の変化により制御されている. 圧負荷による肥大心においては α-MHC mRNAがβ-MHC mRNAに変換することによりミオシンアイソザイムがV1からV3に変わることがヒトおよび実験動物において報告されている. 圧負荷肥大心におけるMHC遺伝子発現の変化は, 圧負荷の心筋への直接的作用によって起こるものなのかあるいは甲状腺ホルモンなどの液性因子を介して起こるものなのかについては未だ明らかにされていない. この点を解明する目的で我々は既にラットを用いて腹部大動脈を縮窄することにより左室圧負荷モデルを作製し検討してきた. 今回はさらに主肺動脈を絞扼することにより右室圧負荷モデルを作成し, 負荷側心室と対側心室とのミオシン重鎖遺伝子の発現動態を対比させる実験を行なった. この結果, 成獣ラットにおいて主肺動脈絞扼による右室心筋ミオシンの変化と同様に遺伝子レベル(α-MHC mRNAからβ-MHC mRNAへ)で起こることが確認された. またアイソザイムの変化はこの遺伝子の変化とよく相関していた. これらの変化は6週間で確立していた. 左室心筋においては, MHC mRNAおよびアイソザイムの変化はコントロール群と比べ有意差は認められなかった. このことにより主肺動脈絞扼による心筋ミオシン重鎖のαからβへの変化は右心系にとどまり, 左心系に有意な影響を与えないことが確認された. 本実験系において右心室負荷程度が絞扼の若干の強弱または個体差により大きな差を生ずることが判明し, 負荷程度の均一化を図るため実験個体数をかなり増やすことを余儀なくされた. しかし現在では絞扼程度の均一化がほぼ確立された. 次の実験段階として, 現在主肺動脈絞扼による短期間の影響の検討と, 絞扼解除による心筋ミオシンの変化の観察を行なっている.
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