研究概要 |
心大血管系の正常及び異常な形態形成と胎生初期の血行動態の変化との密接な関係は以前から推定されてきた. 本研究では, 鶏胚を動物モデルとして用いて, 微小血管造影法により, 正常発生と心血管奇形モデルに於ける胎生期血流パターンの違いを分析し, 心血管奇形発生の要因を解明することが目的である. 本年度はまず正常発生に於ける卵生初期の血流パターンを研究した. Hamburger-HamiltonのStage14〜23の鶏胚で卵黄静脈から注入したメチレン青溶液が, 静脈涸から心房, 原始心室, 総動脈幹, 鰓弓動脈を経由して背側大動脈へと流れる様子を顕微鏡下に35mmカラースライドフィルムに記録した. 同一鶏胚で主な卵黄静脈から2ヶ所以上注入するようにし, Stage17以降では, 少なくとも3ヶ所以上の静脈からの注入が同一鶏胚で記録し得たもののみを分析の対象とした. 計30個の鶏胚の分析の結果, 次の事が明らかとなった. 1):観察したStageを通じて, 静脈涸から大動脈まで層流に近い血流が保たれ, 心大血管での混合は少なかった. 2):異なる静脈からの血流は少しずつ異なった経路を通り, 血流方向に向かって時計回りのラセンを描いていた. 3):このラセン状の血流は成長と共にラセンの強さを増し, 総動脈幹〜球部隆起が発達すると共に心室流出路で2つの血流に分離し始めることが観察された. これらの結果は, 心ルーブ形成以前からラセン状の2大血流が存在し, これらの2つの血流の間に中隔が形成されることを示唆した従来の血流説とは異なっていた. 今後, 正常, 異常の双方の血流パターンをより動的にとらえ, 他の血行動態の示標とも比較検討する必要があると考えられたので, 高速度ビデオ撮影装置を用いた微小血管造影法を行なう. これにウェーブインサータを接続して, 心電図, 圧波形などを同一画面上に表示し, 心時相との関係を更に正確に把握しながら, 胎生期血行動態, 血流パターンの分析を行なうよう準備しつつある.
|