研究概要 |
PNP欠損症は酵素欠損に基づく免疫不全症でこれまでに10数例の報告をみるに過ぎず, 我国での報告は自験例のみで, 詳細な生化学・分子生物学的検討はなされていない. そこで患児の赤血球, 肝及び線維芽細胞を用いて本症の酵素異常の物理化学的, 免疫化学的ならびに分子生物学的検討を進めた. PNP欠損症患児の赤血球PNP活性は正常の約5%と減少し, 両親の活性は約50%を示した. 患児の肝PNP活性は正常対照肝の7-8%と低下しており, その至適pHが少し異っていた. しかし熱安定性やKm値では正常対照肝と差を認めなかった. そこで本例の酵素異常の詳細を免疫化学的, 分子生物学的に明らかとする目的で, ヒト赤血球PNPに対する抗体を作製した. ヒト赤血球からCa-Pgal, DEAE, SephadexG-100等を用いてPNPを精製し, 家兎に免疫して抗PNP抗体を得た. 患児肝は正常対照肝と同様に, オクタロニー法で沈降線を検出した. またWestem blotting法による分子量および蛋白量でも両者間に差を認めなかった. PNP欠損症患児の線維芽細胞を用いて, 線維芽細胞内のPNP合成能について, ^<35>S-methiorine, を用いて蛋白合成を行わせて, 抗体で沈澱させてSDS-PAG電気泳動後, オートラジオグラフで検討したところ, 正常と同様の部位にバンドを検出した. また, 患児肝からmessengerRNAを抽出し, Dot Hybrizationを行った結果, messengerの量には差を認めなかった. Northern blothing法によるmessengerのsizeにも差が認められなかった. このmRNAを用いてin ritro translationを行い, 抗体を用いて作られた蛋白を検出したところ, 対照と同様の蛋白バンドを見出した. 以上から, 患児PNPの変異には大きな欠失等はないと考えられた.
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