研究概要 |
目的:癌遺伝子は発癌過程のみならず, 正常細胞, 組織においてもその増殖・分化に重要な役割を演じている. 皮膚表皮は活発に増殖・分化を営む組織であり, その調節機構と癌遺伝子の関りは, 種々の増殖性皮膚疾患ことに乾癬の病態解明の上で興味深い. 方法並に結果:1.ras遺伝子産物(ras p21)の免疫組織学的検討:乾癬患者の病巣部, 非病巣部皮膚, および健常人皮膚の凍結切片において, 抗ras p21単クローン抗体を用いて, 蛍光抗体法によりras p21の局在を比較, 検討した. 結果は, 1)健常人, 乾癬非病巣部表皮では基底細胞層のみが強く反応した. 2)乾癬病巣部では表皮全層が強く反応した. 3)表皮以外では毛包, エクリン肝腺にも強く反応した. 2.Northern blot法による癌遺伝子発現の検討:乾癬患者病巣部, 健常人正常皮膚をそれぞれ0.4mm, 7.2mmの厚さで採取し, mRANを抽出した. fas, myc, H, K, N-ras, EGF-rcceptor gene, actin geneのプローブを作成し, これらgeneのmRANへの発現をNorthern blot法により観察した. 結果は, 1)fas, mycの発現は乾癬表皮で低下していた. 2)H, N-rasの発現に差はみられなかったが, K-rasにおいて乾癬表皮で増加がみられた. 同時に正常表皮mRANでみられた3本のバンドのうち1.6kbの欠損ないしは低下が認められた. 3)EGF-receptor gene, actin geneの発現に差はみられなかた. 考按:1.ras遺伝子産物はGTP結合能を有し, adenylate cyclase活性の制御に関与すると考えられている. 乾癬表皮でみられたras遺伝子産物の発現増加, K-rasのmRAN発現の増加, 異常は, 乾癬におけるdecreased β-adrenergic responseと関連するのかも知れない. 2.増殖細胞, 組織においてfas, myc発現が低下することは極めて稀である. 乾癬表皮における発現低下の生物学的意義は不明であるが興味深い現象である.
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