研究概要 |
1.種々の炎症性皮膚疾患の発症機序に大きな役割を果していると考えられるマスト細胞に対して, 光線療法がいかなる影響を与えるかをインビトロの実験系において検討した. 2.ラット腹腔マスト細胞にソラレン光化学照射(PUVA)または紫外線照射(UVB)を与え, 照射後コンパウンド48180によって脱顆粒を誘導すると, 照射マスト細胞においては脱顆粒が有意に抑制されることがわかった. 3.光照射の細胞膜リン脂質代謝に与える影響をトリチウム標識アラキドン酸を用いて検討したところ, 照射マスト細胞においてはジアシルグリセロールの産生が有意に抑制された. ジアシルグリセロールはイノシトール燐酸経路の重要な中間代謝産物であり, 一方イノシトール燐酸経路はマスト細胞脱顆粒の第一段階として重要な役割を果していることを考慮すると, これらの結果は, 紫外線照射による脱顆粒抑制が紫外線の細胞膜機能傷害を通して発現している可能性を示唆している. 4.紫外線照射の細胞膜傷害を形態学的に証明するため, フリーズクラクチャー法による膜内粒子の変化を観察したが, 残念ながら本法では顕著な所見が得られなかった. 紫外線による細胞膜傷害はもっと機能的, たとえば酵素学的な変調をもたらすことによって生じるのかも知れない. 5.最後に, 紫外線療法による炎症性皮膚疾患治療の奏功機序を考えるうえで, 今後マスト細胞に注目してさらに検討を加えることが望ましいと思われた.
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