悪性腫瘍の増殖、浸潤、転移に関する研究は、主として腫瘍細胞の性質を調べることにより行われており、腫瘍をとりまく周辺組織との相互作用を調べる研究はなされていなかった。本研究では、悪性腫瘍細胞の浸潤増殖機構を明らかにするために、1)悪性腫瘍細胞の正常線維芽細胞に及ぼす影響、2)悪性腫瘍細胞と腫瘍周辺間質成分との相互作用について検討した。悪性腫瘍細胞モデルとして、ヒト線維肉腫細胞(HTー1080)を用いた。1)悪性腫瘍細胞と線維芽細胞との相互作用について:ヒト線維肉腫細胞(HTー1080)の培養上清(conditioned mediun:CM)の正常線維芽細胞(normal fibroblast:NF)に及ぼす影響を調べた結果、HTー1080CMはNFのカテプシンBおよびヘモグロビンハイドロラーゼの産生を賦活化せしめるような低物子物質を産生放出していること、この低分子物質は加熱処理やトリプシン処理に対して安定であることから、その活性発現に立体構造を必要としないことが明らかとなった。2)腫瘍細胞と腫瘍周辺間質成分との相互作用について:HTー1080と細胞外マトリックス(コラーゲン、フィブリン)との相互関係を各種プロテアーゼをマーカーにして検討した結果、フィブリンおよびコラーゲンともにHTー1080のカテプシンB活性を上昇させることが示された。このことは腫瘍細胞と間質成分との相互関係の存在を明らかにしたものである。以上のことより、腫瘍細胞は周辺線維芽細胞のプロテアーゼ活性を上昇させることにより、又一方に於ては腫瘍細胞自身も周辺マトリックスとの相互作用によりプロテアーゼ活性を上昇させることにより、腫瘍をとりまく強固なマトリックスを破壊分解させ、腫瘍の局所浸潤を容易ならしめているものと推察された。
|