梅毒に感染した患者血清中に出現する抗Treponema pallidum(TP)抗体の、IgクラスならびにIgGサブクラス測定の為の酵素抗体法(EIA)を開発した。更に本法を用いて各症期の患者血清中の抗体量を経時的に追跡し、各抗体が梅毒の治療効果判定の指標となり得るか否かを検討した。60例の陰性血清を対照として計301例の患者血清中の抗TP抗体量を測定したところ、IgM、A、Gの各クラスならびにIgG1〜4の各IgGサブクラスに属する全ての抗TP抗体が検出された。次に、これ等各TP抗体が梅毒の症期によってどの様な動向を示すか、また加療によりいかなる変動を示すかを検討する目的から、初期54例、II期30例、早期潜状18例について治療開始3ケ月目迄の群と、それ以降の群とに分類して両者の比較をした。IgMならびにIgA抗体量は、II期例を除いて加療により有意に減少し、またIgGサブクラスに属する抗体も同様に減少した。しかしながら各症期に特有なサブクラスの出現は観察されず、またその殆どが過去に治療歴を持っていた晩期99例の測定結果からも、治療後に長期間残存する抗体の大部分はIgG1抗体であることが示唆された。更に初期14例、II期8例、早期潜状6例および晩期4例について、その未治療時から加療による抗体の動向を追跡した。全32例中8例のIgM抗体量は、未治療時に既に正常域にあったが、残り24例のうちの62.5%は加療により減少した。一方IgGサブクラス抗体は、全症例共に未治療時に陽性値を示していたが、その71.9%が治療に並行して減少した。過去に治療歴のあった晩期例の抗TPーIgM抗体陽性率は28.3%と低値であり、加えて未治療4例の3例に複数のIgGサブクラス抗体量の減少が認められたことから、IgM抗体量が正常域内にある様な症例、特に晩期例の治癒判定には、これ等IgGサブクラス抗体の測定が有用であると結論づけた。
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