研究概要 |
本研究は躁うつ病者血小板におけるセロトニンー2(5HT-2)受容体を介する5HT刺激性イノシトールリン脂質(PI)加水分解反応をイノシトール小リン酸(IP-1)蓄積亢進により測定し, 躁うつ病者の5HT受容体機能変動の有無を明らかにするとともに, ラット脳切庁における5HT刺激性PI代謝回転に及ぼす五HT合成阻害処置やストレス負荷の影響を明らかにし, 躁うつ病の成因解明の一助とすることを目的としている. 今年度得られた成果は以下のごとくである. 1.同意の得られたうつ病6例の血小板における5HT刺激性IP-1蓄積亢進率は非刺激時に比し, 153%亢進を示し, 健康対照7例, 気分変調性障害3例のIP-1蓄積亢進率はそれぞれ135%, 132%亢進を示した. まだ症例数が少なく, 有意な変化ではないが, うつ病群において160〜170%亢進を示す症例があり, 5HT-2受容体機能亢進を示唆していると考えられる. 2. ラット海馬切片における5HT刺激性PI加水分解反応の測定法を確立した. 5HTのEC50値は550nMであり, この反応は5HT-2受容体拮抗薬リタンセリンにより阻害され, そのKi値は25nMであった. したがって海馬における5HT刺激性PI代謝回転亢進反応は5HT-2受容体を介することが明らかとなった. 3.5HTの合成酸素阻害剤PCPAを10日間反復投与すると, ラット海馬における5HT(100μM)刺激性IP-1蓄積亢進率は230%を示し, 生食投与群の160%に比し, 危険率1%以下の有意差がみられたが, 同一ラットの大頭脳皮質5HT-2受容体数は変化していなかった. 4.抗うつ薬イミプラミン15mg/kg10日間投与後のラット海馬における5HT刺激性IP-1蓄積亢進率は, 大脳皮質5HT-2受容体数が有意に低下していたにもかかわらず, 不変であった. 以上の成績から5HT-2受容体数はその機能と対応した変化を示さない可能性があるといえ, この不一致に関与する因子としてGTP結合調節蛋白の存在があり, 今後の研究課題にG蛋白を加えていく予定である.
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