我々はこれまで、老人斑(SP)の形成機序を明らかにする為、PAM)過沃素酸メセナミン銀)染色を透過電顕に応用し、アミロイド様物質は、原始SP形成早期より、一見正常な神経突起の間にすでに細かく入り込んでいる所見を見い出してきた。一方、剖検脳におけるSP出現の病的意義を明らにしていくこともまた、重要な問題である。我々は、多くの剖検脳にPAM染色を施し、大脳皮質におけるSPの出現頻度と、アルツハイマー神経原細維変化(NFT)、神経細胞脱落、皮質下諸核の変化などにつき検討を重ねてきた。このなかから、従来のアルツハイマー型老年痴呆(SDAT)とは異なる老年期痴呆の一群が存在することが考えられた。 この例は、80才時記憶障害と妄想が出現し、84才頃より痴呆が急速に進行し、死亡する85才時には完成したSDATとしての臨床像を呈した女性である。剖検にて、(1)大脳皮質における多数のSPの出現と中等度の神経細胞脱落、(2)NFTは、海馬から海馬傍回に限局しかつ少数認めるのみ、(3)皮質下諸核(マイネルト核、青斑核等)の神経細胞が保たれる。などの特徴を示した。(1)、(2)の所見を有する老人脳の存在は、依然より指摘されており、Terryらは、臨床・病理・生化学的検討の結果、これらり例もSDATとして考えることを主張している。しかし、Terryらの例も含め、これまでの報告ではSDATで侵される皮質下諸核の変化については言及されておらず、SDATとの異同についてはなお検討を要すると遣る。我々は、従来SDATとして一括されてきたものとは異なる、本例のような臨床的・病理形態的特徴を有する老年痴呆の一群が存在すると考えた。今後、多数の老年期痴呆例について詳細な臨床病理学的検討が必要と思われた。
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