我々は、通常のパラフィン包埋切片に施こされたPAM(過沃素酸メセナミン銀)染色が、通常の鍍銀染色よりもはるかに鋭敏に、老人斑(SP)の初期と考え得る原始SPの非常に早期のものまで同定する事を明らかにした。この方法を透過電顕法に応用することにより、SPがどのように形成され、組織を障害するかを明らかにしていくことを第1の目的とした。また、剖検脳におけるSPの出現とその病的意義に関してPAM法により検討を行った。その結果、1.PAM染色を電顕用エポン包埋組織の連続超薄切片に応用することに成功した。次に、この切片と通常の電顕の切片を連続観察することにより、変性した神経突起がほとんど認められない原始SPでも、一見正常な神経突起の間には、アミロイドフィラメントと同様の構造を示すPAM陽性フィラメントが、すでに非常に細かく入り込んでいる所見を得た。これは、SPの形成は、神経突起の変性が最初であるとの従来の説に疑問をなげかける具体的所見と考えた。現在、このPAM陽性物質の本態と、周囲神経突起との関連性などにつき、検討しつつある。2.臨床的にアルツハイマー型老年痴呆(SDAT)と考えられ、組織学的に、(1)大脳皮質における多数のSPの出現。(2)アルツハイマー神経原線維変化(NFT)は、海馬から海馬傍回に少数認めるのみ。(3)皮質下諸核神経細胞の保持。などの特徴を示す剖検例を検討した。本例で認める(1)、(2)の所見を有する老人脳の存在は、以前より指摘されている。Terryらは、臨床・病理・生化学的検討の結果、これらの例もSDATとして考えることを主張した。しかし、Terryらの例も含め、これまでの報告では、SDATで侵される皮質下諸核の変化について言及されていない。本例の検討より、従来SDATとして一括されてきた例とは趣を異にする、(1)、(2)、(3)に特徴づけられる老年期痴呆の一群が存在することが考えられた。
|