研究概要 |
生体アミン合成の調節に役割をもつとされるバイオプテリンの, 躁うつ病患者血漿中における動態と, in vivoにおける脳内伝達物質に対する影響を調べることが本研究の目的であった. うつ状態にある患者12名の血漿中のバイオプテリンは, 健常者のそれと比べ有意に高い値を示したが, うち6名は寛解状態になってから健常対照者のそれと比較したところ, それらと異ることがなかった. 抗うつ薬はバイオプテリンの血漿レベルには何らの影響も与えていなかった. さらに, 13名の躁うつ病患者について調べたが, 躁状態ではうつ状態のものより値が高く, 寛解期に至ると健常者のそれと異ならなくなった. また双極II型の躁うつ病でも, 病相期に高く寛解期に健常対照群と同じ値に下降していた. これらのことから, 躁うつ病の病相期と寛解期を区別する指標として, 血漿バイオプテリンが位置づけられる可能性が示唆された. 次にこれまでのバイオプテリンは, パーキンソン病, 感情病(躁うつ病), 自閉症などの患者に経口投与し有効であるとの報告がある. 一方では, バイオプテリンが脳内の生体アミン合成を調節しているとの考えに疑問をもつ結果も報告されている. そこでバイオプテリンの生体内での働きを明らかにするため, 脳室内に投与し, in vivoの脳微量透折法によって線条体のドーパ, ドパック, 5HIAAの濃度を測定した. 左の脳室内に500μgのバイオプテリン投与後30分後の線条体の濃度は, 右がコントロールの93倍に上昇し, 左側が23倍に上昇した. しかし, 500-1500μgの投与前後で, 透析液中のドーパ, ドパック, ホモバニリレ酸, 5HIAAの経時的変化を対照群と比較したところ, 差は見られなかった. 以上の結果から, 少くとも正常のラットでは, バイオプテリンを投与することが, 線条体の細胞外液内の代謝産物の濃度を増加させることはないと思われた.
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