研究概要 |
1.アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)患者の脳内の変化を知る目的で, ライソゾーム内酵素について調べた. (1)SDAT剖検脳では, 大脳皮質, 海馬ともにcathepsin D活性が上昇していた. (2)実験的神経原線維変化(ENFC)作製家兎脳においてcathepsin Dとacid DNaseの組織蛋白当たりの活性上昇がみられ, とくに神経原線維変化の多くみられる上部精髄において著しい上昇を示した. また, acid DNase/alkaline DNaseの比の上昇がENEC脳においてみられた. (3)神経原線維変化の構成成分として線維性蛋白質が考えられているが, その中の1つであるneurofilament蛋白質は, cathepsin Dの基質となりうること, さらにpH6付近でも作用をうけ, 脳内でcathepsin Dが線維性蛋白質の代謝に影響を与える可能性が認められた. (4)ENFC作製家兎脳より精製したcathepsin Dは, 単位酵素蛋白当たりの活性の低下がみられ, 病的状態における酵素の変化が示唆された. 以上のことから, SDAT脳内においても, ライソゾーム内酵素の異常, それに基づく線維性蛋白質の異常が生じている可能性が示唆された. 2.痴呆の発症と脳血流の関連性をみる目的で, 砂ネズミを用いて脳虚血モデルを作製した. (1)両側総頸動脈を2〜15分間閉塞し, 再開通後の脳内蛋白質の変化を検討したところ, 水溶性蛋白質のうちmicrotubule associated protein(MAP2), カルペクチン, クラスリンの各蛋白質が減少し, MAP2がとくに虚血に対して鋭敏に反応した. (2)虚血脳におけるMAP2の変化にはCa2+依存性蛋白質分解酵素が関与している可能性が示唆された. (3)両側総頸動脈をコイル状のステンレススチール線によって狭窄し, 脳血流量を約30%低下させることによって, 慢性脳血流低下モデルを作製した. 処置1ヶ月後, われわれが開発し作製した実験動物行動観察装置OUSEMによって行動を観察した結果, 学習, 記憶に関連した能力が低下している傾向が示された. 光顕レベルの形態には変化は認められなかった.
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