研究概要 |
ヒトにおいて神経内分泌の動態は中枢性モノアミンの関与が大であることが明らかにされており, これを利用した研究がうつ病の病態研究に極めて有用であることがいわれている. 今回われわれは中枢神経系のモノアミン受容体のうち, アドレナリン性α_2受容体に選択的に作用するとされる薬物, クロニジンをうつ病者に経口投与し, 得られた神経内分泌反応の解析を進めているが, これまでに得られた結果は以下のとおりである. (1)うつ病者ではクロニジン負荷による成長ホルモン分泌が健常者に比べて低下している, (2)逆にうつ病者ではコルチゾールおよびプロラクチン分泌が健常者に比べて抑制されない, (3)うつ病者ではノルアドレナリンの代謝物であるMHPGの抑制が健常者に比較して遅延している, などである. さらに興味深いことは, (4)うつ病者では健常者でみられた血漿MHPG-コルチゾール値の正の相関が消失していること, (5)うつ病者では健常者にみられる成長ホルモンーコルチゾール値間の正の相関が失われ, 逆に負の相関がみられることなどである. 以上の結果を従来いわれている中枢性モノアミンの神経内分泌調整から推論すれば, うつ病者では(1)シナプス前性機能(MHPGに表わされる)とセロトニン機能(コルチゾール値に表わされる)のバランスが破綻しているほか, (2)アドレナリン性シナプス後性(HGHに表わされる)のα_2受容体機能とセロトニン機能が拮抗的に作用している状態にあると想定される. 本所見はうつ病者ではアドレナリンーセロトニン不均衡(インバランス)と考えられる病態が存在することを示唆するもので, うつ病の病態に新しい観点からの説明を与えるものであろう. 次年度は本所見をさらに統合発展させたい.
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