我々はうつ病者に対して、アドレナリン性α_2-受容体アゴニストであるクロニジンを負荷し、中枢モノアミン系の指標としての神経内分泌反応を健常者を対照として検索してきた。昭和62年度の研究成果では、1)うつ病者ではクロニジン負荷によるヒト成長ホルモンの分泌反応が健常者に比べて鈍化していること、2)同じく血漿コルチゾール、プロラクチン分泌の抑制が弱いこと、3)うつ病者では成長ホルモンの分泌とコルチゾール値間に逆相関が認められることなどを見出してきた。昭和63年度は対象者を増やして、以上の結果を再確認し、得られた内分泌の臨床的意義を検討するところにあったが、その結果上記の3)はうつ病者のみならず、健常者においても認められることが確認された。また成長ホルモンの分泌不良性は、うつ病者の診断指標として有用であるだけでなく、従来神経性うつ病者といわれてきた軽症うつ病者を区別する客感的指標としても有用であることが明らかとなった。一方クロニジン負荷時の血漿コルチゾールは生物的うつ病、すなわちメランコリーを伴ううつ病の状態指標である可能性が考えられるところとなった。ところで、クロニジン負荷による成長ホルモン分泌とコルチゾール値間にみられた負の相関は、コルチゾール分泌を調整する中枢モノアミン機構が、成長ホルモン分泌に関わる機構によって調節されていることを示している。このことはアドレナリン性α_2-受容体とセロトニン(特にセロトニン-_2受容体)間には、例えば異所性のα_2-受容体(hetero-receptor)といった。従来理論的に想定されていた受容体の存在を想定させるものであり、極めて興味深いものである。なお、以上の全研究経過を通じて本負荷試験の安全性には全く問題が見られなかった。従って、本研究の上に立ち、将来経静脈的なクロニジン負荷試験をうつ病の診断を中心とする臨床的応用への基盤が整えられたものと考える。
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