近年うつ病の病態として、各種モノアミン受容体の感受性異常の存在を認めるとする考えがある。今回我々はうつ病者、神経症性うつ病におけるα_2アドレナリン受容体感受性を調べるために、α_2受容体アゴニストのclonidine負荷による神経内分秘反応を、健常者を対得として比較した。clonidinne負荷によってヒト成長ホルモン(HGH)分秘、コルチゾ-ル(COR)およびMHPG濃度の低下がもたらされたが、うつ病者におけるこれらの反応はいずれも対照者に比較して不良であった神経症性うつ病者におけるCOR反応は対照者との間に差異はなかったが、HGHの反応は有意に低下していた。健常者、うつ病者ともHGH反応とCOR減少反応の間には有意の正相関がみられ、うつ病者のみにおいて、負荷前のMHPG値が、clonidine負荷後のHGH値およびCOR最低値と有意に相関した。以上の結果から、うつ病者では特にα_2受容体の低感受性があり、postsynapticα_2受容体を介するHGH分秘反応の鈍化と同α_2受容体を介するHPA系の抑制不良(高COR血症)がもたらされ、HRA系の過活動がその程度に応じてノルアドレナリン機能の亢進をもたらしているものと想定した。 このようにして得られたclonidine負荷後のCORの値を、うつ病診断の目的で利用可能かどうかを検討した。健常者におけるclonidine負荷後の最低COR濃度は大多数が6.0μg/dl以下であったが、うつ病者では約半数がその値を越していた。その結果、clonidine負荷後のCOR最低値の6.0μg/dlをcut off levelとして用いると、うつ病診断の感受性は54.5%、特異性は95.5%、診断確実性は96.0%となった。これらの数値は、現在うつ病の診断法として一般的に使用されているdexamethadone抑制試験とほぼ匹敵する値である。従って、以上の結果から本法はうつ病の診断法として臨床的有用性をもつものと考えられた。
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