研究概要 |
培養ラット甲状腺細胞(FRTL-5)を用い, そのTSH, TSI(Thyroid Stimulating Immunoglobulins)すなわちバセドウ疾患者IgG, フォルスコリン, dibutyryl cAMP刺激によるヨード摂取上昇反応に対して原発性甲状腺機能低下疾患者IgGが抑制作用を有するか否かを検討した. その結果 1.ブロッキングタイプのTSH受容体抗体を有する特発性粘液水腫患者の全例において, TSH刺激によるヨード摂取上昇反応に対して抑制作用が認められた. この抑制活性は, TBII(TSH hinding inhibitor immunoglobulins)活性と有意の相関関係を示した. 2.TBII陰性の原発性甲状腺機能低下症患者の約半数においてもこのような抑制活性が認められた. 3.一方甲状腺機能が正常の橋本病患者においてはこのような抑制活性が認められなかった. 4.原発性甲状腺機能低下症患者の一部の症例でフオルスコリン刺激, dibutyryl cAMP刺激によるヨード摂取上昇反応に対して抑制作用が認められた. 5.TSH刺激によるヨード摂取上昇反応に対する抑制活性はTSI刺激のそれに対する抑制活性とよく一致し, さらにこれら刺激物質によるcAPM上昇反応に対する抑制活性とも有意の相関関係を示した. 6.TBII陰性の症例において, TSH刺激に対する抑制活性とフォースコリン刺激に対するそれとの間に有意の相関関係が認められた. 以上まとめると1.原発性甲状腺機能低下症患者の血中にヨード摂取抑制抗体が存在し, 甲状腺機能低下症の発現に重要な役割を果していることが示唆された. 2.このような抑制抗体の作用発現機構として(1)TSH受容体におけるTSHの結合阻害に基づくもの, (2)アデニレートシクラーゼ活性の阻害に基づくもの(3)cAMP産生以降の刺激伝達機構における抑制作用の3通りが考えられた.
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