癌遺伝子c-erb AがT_3レセプター(NT_3R)をコードしているという最近の研究をもとに前年度c-erb Aのポリペプチドを合成し、これに対するポリクローナル抗体を作成した。この抗体はラット肝NT_3Rを免疫沈降しT_3結合能も抑制する成績が得られた為、当該年度はこの抗体のNT_3Rに対する作用を詳細に検討し以下の結果を得た。(1)この抗体はラット肝腎、脳、ヒト腎から作成したNT_3Rを種、臓器差なく同程度に免疫沈降し、かつNT_3RのT_3結合能を特異的に阻害した。この効果は抗体の用量依存性であった。(2)NT_3RのT_3結合に対する阻害様式は競合的であり、最大結合容量は変化せず、結合親和定数は抗体の用量依存性に減少した。(3)この抗体はラット肝細胞質T_3結合蛋白(CT_3RBP)、ヒト血中T_4結合蛋白(TBG)を認識せず、両者のもつT_3結合能に影響を与えなかった。従ってCT_3BP、TBGのT_3結合領域とNT_3RのT_3結合領域は蛋白構造上異なっていることが推測された。(4)NT_3R分画とリバースT_3結合蛋白(rT_3BP)分画を含むラット肝抽出核蛋白を抗体であらかじめ免疫吸収すると、T_3結合能は著明に減少するのに対しリバースT_3結合能は変化しなかった。このことは従来同一蛋白である可能性が示されていたNT_3RとrT_3BPが別々の蛋白であることを示唆する。(5)ヒト腎cDNAライブラリーからクローニングされたc-erb Aα_1、βcDNAのin vitro転写翻訳産物は、本抗体で特異的に免疫沈降した。このことから本抗体がc-erb Aα_1及びβ型に対する抗体であることが確認された。 以上c-erb A蛋白とNT_3Rが同一であることを抗体を用いた研究からも明らかにした。この抗体を用いてNT_3Rの分析を現在すすめている。また本抗体がNT_3Rを免疫沈降しかつT_3結合を阻害したことから、NT_3Rが複数個のT_3と結合する可能性もあり、現在モノクローナル抗体を作成し検討を行っている。
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