研究概要 |
本研究では, 近年ガン遺伝子が正常細胞内にも存在し, その分化・増殖の過程に重要な役割をはたしているという点に着目し, ヒト甲状腺細胞において種々の刺激物質と細胞の分化・増殖にガン遺伝子がどの様な関与があるかを解明することにある. 一方, 1986年末にガン遺伝子の1つであるc-erb Aが甲状腺ホルモン(T_3)の受容体であるという報告がなされ, このT_3受容体と思われるc-erb Aのリンパ球内における調節機構をmRNAレベルで検討した. まず, 甲状腺疾患の1つであるバセドウ病の成因は現在, 自己免疫機序によっておこり, 患者血清中のIgGが甲状腺を刺激し, 血中甲状腺ホルモンが増加するという考えが広く認められている. しかしながら, 甲状腺自身にその病因が存在する可能性は否定できない. そこで手術時に得られたバセドウ病甲状腺細胞と, 甲状腺癌の手術時に得られた癌周辺の正常甲状腺細胞を培養し, それぞれ TSH,IL-1で刺激しガン遺伝子の発現をmRNAレベルで検討した. その結果, バセドウ病甲状腺細胞は, 刺激前の状態において, すでにc-myc mRNAの発現を認め, 正常甲状腺細胞では認められなかった. また, TSH,IL-1刺激では, 正常及びバセドウ病甲状腺細胞ともにc-myc mRNAの発現を認め, 昨年, 米国甲状腺学会で発表した. 一方, c-erb Aが甲状腺ホルモンであるT_3(triiodo thyronine)の受容体であるということより, 甲状腺ホルモンによるc-erb Aの発現調節機構を, 甲状腺機能亢進症, 低下症及び正常人の末梢リンパ球を用い検討した. 機能低下症のリンパ球でc-erb AのmRNAが著明に増加をしているという結果を得, 米国甲状腺学会にて発表した.
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