1980年代前半に、ガンウィルスから発現されたガン遺伝子と非常に類似した構造をもつ遺伝子が正常細胞にも存在することが発表された。甲状腺細胞分化・増殖に影響を与える各種刺激物質が、ヒト甲状腺細胞でどの様なガン遺伝子を発現させているかを検討することが、本研究の目的であった。 手術時に得られたバセドウ病甲状腺の細胞を初代培養し、TSH、インターロイキン1を培養液中に添加し、c-myc mRNA発現をNorthein Rlot法にて検討したところ、両者ともにc-myc mRNA発現を増加させた。更に興味あることに バセドウ病甲状腺細胞は、正常ヒト甲状腺細胞と違いこれら刺激物質の添加前にすでに、ある程度のc-myc mRNAの増加を認めたことである。 次に本研究がスタートした後、ガン遺伝子の一種である、c-ErbAが甲状腺ホルモンのT_3受容体であることが発表された。そこで本研究の追加研究として、このc-ErbA発現に関するclinical Roseachを行なった。過去の蛋白レベルにおけるT_3受容体の調節は甲状腺ホルモンによりコントロールされているという報告であった。そこで、甲状腺機能亢進症・低下症・健康正常人の末梢リンパ球におけるc-ErbAの発現を検討したところ、甲状腺機能低下症の末梢リンパ球のc-ErbA、mRNAの増加を認めたが、正常人・機能亢進症では変化はなかった。 現在は、本研究成果をもとに、甲状腺の分化・増殖に視点をおき、ガン遺伝子に加え、甲状腺に特異的に発現するペルオキシダーゼ、サイログロブリンのプローベを用い、サイトカイン及び最近特に注目を集めているビタミンAの作用を遺伝子レベルで検討中である。
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